つなごう医療 中日メディカルサイト | 青く、老いたい
http://iryou.chunichi.co.jp/medical_column/leaf/20120314172444122
ホームヘルパー養成講座に通っている知人が、講義で聴いた話です。
あるグループホームに入所していた認知症のおじいさんが
自殺をほのめかす言葉を残して、外出しました。
後を追った介護士。
引き留めても感情が高ぶるだけなので、雑談をしながら一緒に歩きました。
歩道橋の上で「ここがいいか」というおじいさんに
「いや、もっと他の場所がいいですよ」。
ビルの屋上に来ると「もっといい場所を探しましょうよ」。
そのうちに、おじいさんは当初の目的を忘れ、介護士と散歩している気分になっていきました。
夕暮れ近く、
おなかがすいたおじいさんは、
目に付いたハンバーガーショップに入りました。
注文をして、
レジの女性に「いくらだ」とポケットから取り出したのは、
くしゃくしゃのティッシュペーパー。
介護士は一瞬、青ざめました。
他人から間違いを指摘されると、
認知症の人は逆上して不安定になることがよくあるからです。
でも、レジの若い女性は落ち着いて、
笑顔でこう答えました。
「申し訳ありません。当店においては現在、
こちらのお札はご利用できなくなっております」
おじいさんは
「そうか、ここでは、この金は使えんのか」と、
あらためてポケットの小銭を取り出しました。
介護士はすっかり、この店のファンになったそうです。
◆否定せずに誘導する
自殺を考えるおじいさんの気をそらした介護士も見事だけど、
レジ女性のとっさの対応、拍手ものですね。
認知症の患者数は2010年現在で、推定226万人。
10年後には300万人を突破する見通しです。
その6割以上を占めるアルツハイマー病は、記憶のストック容量が小さくなって、
新しい記憶、大事な記憶がこぼれ落ち、社会生活に支障を来す ようになる病気。
人間としてのプライドも、自分の能力への不安も抱えたまま病気が進行していきます。
失敗や勘違いがあっても、あからさまに否定せずに誘導していくことが介護の基本。
このレジ女性は、たまたま身内に認知症の方がいたか、
店の研修で対応を学んだのでしょう。
認知症の人が住みやすい社会づくりは、
こんな笑顔の積み重ねで広がっていくのだろうと思います。
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